戸棚の上に置かれたハードケースからフルートを取り出す。中からピカピカに磨かれたフルートが、太陽の光を浴びてキラキラと銀の美しい光りを放つ。

それを手に取り、唇に充てる。


両手を鍵盤に押し付けると、高く深い音が響き渡る。

隣の窓に向かい、ホールニューワールドを奏でる。 直ぐに向かいの窓が開いたかと思うと、潤がニコッと笑って顔を出した。

そしてフルートに合わせるようにピアノを弾き始めた。



悲しくなる時も、嬉しくなる時も、フルートを奏でたくなるのは不思議だ。

けれど、フルートだけでは音は軽すぎる。そこにピアノが合わさるともっと深い音色が刻まれる。重みも増す。

そして潤がそこに住んでいた時は、私が部屋でフルートを奏で始めると決まって合わせるようにピアノを弾いてくれた。

私は潤の奏でるピアノが好きだった。ピアノを始めると言ってくれた時は、一緒にフルートと弾けると酷く喜んだものだ。


――きらめき輝く 素敵な世界――


ねぇ、潤。あなたは自由よね。

私はそれが親不孝だとは思っていない。

潤だったら、と何度も考えた事。私がもしも潤だったら、と。

私の世界には余り色がない。色が与えられなかった。でも潤の世界はいつだってカラフルで、私の見た事がないような物を沢山見るのよね。その大きな瞳で――

私もそれが見て見たい。

この日初めて自由への憧れを願ったのかもしれない。