だから今日だってそうだった。

初め…潤からこの話を貰った時は乗り気ではなかった。モデルに興味もなかったし、まさかこの私が誰かに撮影される被写体になれるとは到底思えなかったからだ。

学生時代から友達である佐波は芸能関係の仕事をしていて、撮影には慣れているような子だった。だからこの話を電話でするとキャーキャー騒いでいた。菫は絶対にモデル向きだから良い撮影になるよ、と言われて。

人に写真を撮られるという事はどういった努力をすれば良いのか訊ねると、電話の先で佐波は大笑いをした。私は真面目過ぎる、と。

撮影なんてなるようになるものだから、自然体の自分で良いとアドバイスをされたけれど、自然体の私というのはとてもつまらない女なのである。

だから撮影前日の昨日は緊張しっぱなしだった。潤はそんな私を気遣い、昨日から’大丈夫’と何度も繰り返す。



アンティークな雰囲気を感じさせる古い洋館がその日の撮影場所だった。

そこには大勢のスタッフがいて、見た事のないような機材が沢山並んでおり、それを見ただけで頭がくらりとしてしまった。

…こんなにたくさんのスタッフが関わっている物なの?!

それもそうか…S.A.Kはアパレルブランドの中でも上場企業だ。撮影といってももっと軽い物だと思っていた自分にさっそく後悔し始めた。

潤の後ろ金魚の糞の如く歩く私にを前に、彼は堂々とした面持ちだった。けれど、そこには私を安心させる懐かしい顔があったのだ。

「菫ーー!!!」

熊さんのような容姿は、小学生の頃から変わらない。いつもニコニコとしていて、人当りの良い彼は小学校時代から潤と1番の仲良しだった。

私にも良くしてくれた同級生のひとりだった。

阿久津 俊哉。S.A.Kに入社しているとは潤から大分前に聞いていた。