背中を押そうとしてくれている夏美ちゃんには悪いけど、もっと近付いてあわよくば......なんて事は考えてはいない。

私は、姿を見れて挨拶だけ出来ている今に不満は無いのだから。


「勿体無いなぁ、花音は......良いとこいっぱいあるんだから大人しくしてないでガンガン攻めていけば良いのに」


何故か当人である私以上にやる気を見せる夏美ちゃん。

思わず、笑いが込み上げてきて吹き出してしまう。慌てて口元を両手で隠すが遅かった。じとっとした眼差しを向けられたかと思えば、両脇を擽られてしまう。これでは笑いが収まらない。

笑った罰ーーという事で暫く笑わされてしまった。










翌日。

今日は学校が休み。

上杉くんに会えないのは残念だが、それ以上に今日は待ちに待った少女マンガの発売日だ。

灰色のパーカーに短いパンツ、黒のトレンカを穿いて、財布とスマホを入れたバッグを持ち、いつもの書店へと向かう。

《あー、楽しみだなぁ~》

頬が緩んでいる自覚はある。

でも止められない。

止めるつもりもない。

私は書店に着くと、迷わず新巻コーナーの所へと向かった。

店が開いてそれ程時間が経っていない為か、人はまばらだ。