『初めまして 蓮菜です』

友達の紹介で連絡を取り合っていた
3つ下の太一と会うことになった
正直、最初は年下ということもあり
気分がのらなかったが…
友達が「どうしても…」というので
連絡だけとることにしたのだ

社会人の私と高校生の彼
まぁ恋愛に発展することはないだろう…
と思っていたある日
太一から『会いたい』と言われたのだ
3つも年上の女に会いたがるなんて
甘えたいタイプの人かな…
実を言うと私は甘えたいタイプ
一度は断ってみたが
興味本意で会ってみることにした

もちろん私が車で会いに行った
会った瞬間 トキメいてしまったのは
ここだけの話で…
顔も身長もどんぴしゃでタイプだった
それまでも何度も恋愛をしてきたが
見た目がこんなにどんぴしゃな人は初めてで
胸のドキドキが止まらなかった

ドライブデートを繰り返したある日
太一は私に『俺の彼女になってほしい』と言った
顔面偏差値も身長も高く 見た目は文句なし
その上 性格は穏やかで 爽やか
断る理由は探しても見つからなかった
ただ1つひっかかっていたのは…

『私 年上らしいこと何もできないよ?』

そんな私の不安は太一の言葉で消される

『蓮菜がたまたま3年早く生まれただけ
年上らしいことしてほしいなんて思ったことない』

確かに 彼は凛々しい
そして そんな彼に私は自然と甘えていた気がする
私は3つ下の太一の胸に飛び込むことにした

太一を私に紹介してくれた友達は
「あんなに嫌がってたのに…」
と目を細めながらも 喜んでくれた
「優奈、ありがとう」

こうして 私と太一の幸せな日々が始まった

彼の地元の夏祭りで手を繋いで歩いた
会う友達 会う友達に
自慢げに『俺の彼女♬』と
紹介してくれる彼が愛おしかった
プリクラを撮る時に
ふざける彼が愛おしかった
私の車に自分の好きなアーティストの
アルバムをのせ
楽しそうに歌う彼が愛おしかった

そんなある日 太一が私を家に誘ってくれた
3つも年上の私が 太一の彼女として
太一の家に行ってもいいものか…
高校生の息子に社会人の彼女がいると知って
ご両親はショックを受けないか…
不安でしかなかったが
太一が『大丈夫だから』と言ってくれたので
遊びに行くことにした

家に入るなり ご両親に挨拶をした
特に何も言われることもなく
ただ、私が社会人で年上だということは
知っているようだった
そして 小さい妹と弟と少しはしゃぎ
太一の部屋に案内された
部屋に入る手前でおばあちゃんにも
会えたので 挨拶をした

部屋に入ると 私の車で聴きなれた
太一の好きなアーティストの音楽をかけ
ソファに2人で並んで座り 手を繋いだ
たわいもない話で盛り上がったり
キスをしたり 一緒に歌ってハモってみたり…

気づいたら 2人で頭を寄せ合い
眠ってしまっていたみたいで
外は少し暗くなりかけていた
慌てて帰る準備をして部屋を出ると
向こうの部屋から おばあちゃんに呼ばれた

『蓮菜さんって言ったかしら?
あなた社会人でしょう?
こんな暗い中 電気も付けずに…
太一はまだ高校生です
小さい妹や弟もいるんだから…』

と まだ何か言いたそうだったが
太一が『行こう』と 私の手を引っ張った
私はご両親に『お邪魔しました』と伝え
逃げるように帰った
太一は
『嫌な思いさせてごめん 気にしないで』
と言ってくれたけど
まだ若く 未熟な私には
"気にしない"ことが難しかった

太一と過ごす時間は本当に幸せで
太一は私が年上だとか関係なく
たくましく 私を存分に甘えさせてくれた
太一の胸の中は とても居心地がよかった
それなのに…
彼のおばあちゃんからのお叱りが
私の頭から離れてくれなかった

悩んで…悩んで 悩んだ…たくさん
こんなことで 大好きな人の手を
離していいものなのか
だけど 私の心はもろく 弱く…
耐えてはくれなかった

私は太一の手をはなすことにした
あの日 太一の家に行かなければ…
あの時 2人で眠ってしまわなければ…
そんな後悔が押し寄せる中
私は太一に電話で別れを告げた
太一は『嫌だ』と言ってくれた 何度も
私は『ごめんね』しか言えなかった
あの時 彼が何を考えていたのか
何を思っていたのか 私にはわからない
ただ 優しい彼は それ以上
私を問い詰めることはなかった

『蓮菜の車にのせてるCDとりに行くね』
会いたくなかった 大好きだから
でも CD返さないと…
『私が届けるよ』と言ったけど
『大丈夫 俺が行くから』

いつもは私が車で行ってた道を
太一が自転車で来てくれた
絶対に泣かないと心に決め
太一にCDをわたす
よかった…思ったより元気そう
お互い 笑顔で会えた
『他に返すものなかったかな?』
と聞いた私に 太一が言った最後の言葉

『俺の彼女返して』

いたずらっぽく はにかんだ笑顔で
言ったその言葉は
切なくて 嬉しくて 悲しくて
私の胸を熱くした