ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語

「まあ、そうなのね〜。
だったら近くなるし、またいつでも来てちょうだいね。あ、ゆっくりしていって。」

「お母さん、お風呂沸いてるから。
先入ってね。
健心はレポートがあるみたい。
あ、そうだ。
今日、修司先生ご夫妻に焼肉ご馳走になったの。健心も一緒に。」

「あら、そうなの。
良かったわね〜。
彬良くん、お兄様に宜しくお伝えくださいね。」

「あ、はい!」

相変わらず、おっとり喋る灯里の母親。
成人した娘がいるように見えない若々しさだ。
以前会った時より、ずっと表情が明るい。
当たり前か…。
あの時はおじさんが亡くなった直後だったからな。
今の文化センターの仕事が合ってるんだろう。
溌剌としている。

「じゃあ、先にお風呂に行かせてもらうわ。
彬良くん、ごゆっくり。」

「あ、俺も、もう失礼します。
遅くにすみません。」

俺もそろそろ失礼しないとな。
話が変なところで途切れてしまったが……

おばさんは風呂に行ってしまった。

遅いし、話の続きはまたか……

「……彬良。
さっきの話だけどね。
私自身は、院長秘書を辞める気はないよ?」

灯里は話を続ける意思があるみたいだ。

「灯里……俺の言い方が悪かったなら謝る。
灯里には廣澤にいてほしい。
うちのどうしようもないあの父親の面倒みてくれるのは、灯里くらいのもんだろ?
それに……俺も、灯里にそばにいてほしい。」

よし。言ったぞ!

「あ、彬良…!
うん。辞めないからね?」

「わかってる。
でもな、俺が言いたかったのは……。」