ウブで不器用なお殿様と天然くノ一の物語

「うん。まあ、楽しかったよ。
でも、本当に語学を教えられるなら、
その方がいいわ。
私ね、ずっと今の仕事と両立していける副業があればいいな、って思ってたの。
……せっかく、彬良に数学教えてもらって、
K大に入ったのに、なんか活かせてないなぁって思ってたから。
今回の麗先生からのお話、続けていって、
広がればいいなぁって思うの。」

灯里が考えてることは、当然のことだ。
元々、秘書になんてなる予定はなかった。
父親の不幸がなければ、いろんな可能性があったんだ。

「……なぁ、灯里が本当にしたかったことってなんだ?」

「え?………本当にしたかったこと…?」

「大学で、どういう道に進もうとしてた?」

叶えてあげられるわけじゃない。
でも、大学時代、灯里が何を考えてたか、
今更ながらに知りたかった。

ずっと、一緒に居られたら、その全てを共有出来てたはずだ。

俺が勝手に勘違いして、自ら手放したんだけど…


「資格は取れるだけ取ろうと思ったの。
教職と司書と学芸員は取ったわ。
でも、その中では教職くらいかしら?
私の中で現実的なのは。
通訳案内業の資格も取るつもりだったのよ。
父が亡くなって、実習、卒論、家のことに追われてそれどころじゃなくなって、申し込むのを忘れてたのよ。
多分、その辺りね。私が大学の時に考えていたのは。
翻訳は、面白そうではあるけど、やっぱり話したい。
あと、転勤があるような仕事だけは就く気がなかった。商社とかね。
健心のことを考えると、この家から離れることは出来ないし。」