◇◇


はあぁぁ〜〜〜〜

「お前、幸せ逃げるぞ?」

いつの間にか、兄貴が隣の席に座っていた。
あぁ、ここ食堂だったな……
あれ、兄貴、殆ど食べ終わってる?

「早く食べ終われ。
お前、ずっとボーッとしてたぞ?」

さすがに全く食欲がない。

「もういい。食欲ないんだ。」

「ダメだ。残さず食べろ。
食堂のスタッフにそんな皿返せないだろ。」

…そうだった。
ここは廣澤の食堂だ。
兄貴の言う通り、俺が残せばスタッフが気にする。

「食べるよ。
……珍しいね。こんな時間に。」

お昼休みの時間から1時間は過ぎてる。
昨日から、使い物にならない俺は、自覚していたので、なるべく患者に接しないよう、医局の片付けを無心にやっていた。
気付いたらこの時間だった。
午後はさすがに病棟を回らないとな。

「あぁ。オペが長引いた。
ちょっと厄介なオペでな……。
でも、上手くいったぞ。」

兄は腕がいい。
いい仕事をした顔をしている。

「この後、時間があるならコーヒー付き合え。」

「……なに?」

「ここじゃ、なにも話せないだろ?」

確かに。
病院スタッフだけでなく、患者さんまでチラチラと俺達を見ている。
まあ、廣澤兄弟が揃ってるのが珍しいからだろう。
俺は速攻で食べ終えて、食堂を後にした。