《喜菜》
「ここだよね。拓?」

「あぁたぶん」

私たちは今、打ち上げ会場の焼肉屋の前にいる。

「何もたもたしてんの?入るぞ。」

「う、うん。」

こういうところで、学校の子達と食べたことってなかったから、ちょっと緊張する。

カランカラン♪

「いらっしゃいませ~」

店に入ると、お座敷の席をうちの学校のメンバーが陣取っている。

「あっ、森本と小田原さん来たぞ~。男子こっち、女子は、あっちの席な~」

男子と女子でテーブルを分けてるみたい。

拓は、男子の席、私は、女子の席に座った。

「お~い、喜菜~。こっち~」

ここみが手を振ってくれる。

「ここみ!もう、お料理って注文したの?」

「注文したけど、まだ来てないよ」

「お待たせしました~。特選盛り合わせです」

「あっ、来たよ」

わぁ、沢山のお肉!

美味しそう…。

「喜菜、ドリンク頼みなよ。私たちはもう頼んだから。」

「うん、わかった。ん~じゃあ、オレンジジュースにしよっかな。すいませーん、オレンジジュースお願いします。」

「かしこまりました~」

ジュースを頼んでいる間に他の子は、お肉を焼きはじめている。

「はい、では、体育祭の打ち上げを行いたいと思います!」

そう宣言したのは、寺山くんだった。

そっか、実行委員だもんね。

…って、私も実行委員だよ!

でも、今出ていったところで、迷惑なだけだと思うし、黙っていよう。

「というわけで!乾杯したいと思います。乾杯してくれるのは、小田原さんです!」

えっ!私?

乾杯しなきゃ、と思って立ち上がったら…

「ヒュー、我が校のマドンナ~」

「ヒューヒュー」

なんて、男子が茶化す声が聞こえて、よろめいてしまった。

「ちょ、喜菜大丈夫?もう、男子そんなこと言わないで。森本くんが超にらんでるよっ」

慌ててここみが支えてくれる。

「えっ?うわっ森本、にらむなって。」

拓は無視。

「あいかわらず、わかりやすいねぇ、森本くん。」

そう、ここみがボソッとつぶやいたけど、なんのことだろう。

わかりやすい?って、どういうことなのかな…?

まぁ、この際そんなことは気にしてられないよね。

「す、すいません。気を取り直して、乾杯したいと思います。では、かんぱーい!」

「かんぱーい♪」

みんな、コップをぶつけあって、さっきの雰囲気はなんだったんだというよう。

…よかった、なんとかなったみたい。

みんなでおいしく焼き肉を食べて、8:30ごろになったとき…

「なぁ、そろそろ、二次会行こーぜ。カラオケ♪」

藤岡くんがそういった。

「いいねぇー」

みんな、便乗してるけど私、9:00までに帰りなさいって言われてるから、行けないや…。

「喜菜、行くの?私は、行くつもり」

ここみは、行くみたい。

「ごめん、私は行けないの。9:00までに帰らないといけなくって」

「そうなんだ、気を付けなよ、もう夜だし」

「うん、ありがと。」

さて、拓はどうするのかな?

…あぁ、二次会行くみたい。

というより、男子にひっぱられてて、行かされる、という感じ。

仕方ないよね。

お勘定を済ませてから、店の外に出ると、

「小田原さん、二次会行かないの?」

「寺山くん…。私、九時までに帰らないといけなくて。ごめんね」

実行委員なのに。

ほとんど、仕事できなかったから。

…申し訳ない。

「いや、俺も行かないから。」

寺山くんも二次会、行かないんだ。

「そうなんだ、じゃあ駅まで一緒にいかない?」

一人で寂しいと思っていたところだったし。

「いいよ。ちょうど話したいこともあったし。」

「何?」

話したいことってなんだろう…?

「ここじゃちょっと…、駅までいこう。」

「? う、うん」

「てか、小田原さん私服かわいいね」

え、そんなこと言われたのはじめてだよ。

「ありがと。うれしい」

「いや、その笑顔は反則だろ。」

? 何いってるんだろ。

そんな会話をしているうちに、駅についた。

「…で、話って何?」

「うん、実は俺、小田原さんのことが好きだ。付き合ってくれないかな?」

えっ…?寺山くんが私のことを好き?

頭が混乱する。

それって、恋愛って意味だよね。

でも私は…

「ごめんね、寺山くんのこと友達として好きだけど、恋愛って意味ではないと思うの。気持ちはうれしいけど、寺山くんとは付き合えません。」

「…そっか。友達としてこれからも接してくれる?」

これまでと同じ接し方ってことだよね…?

「うん、友達としてよろしくね」

「じゃ、俺は、こっちの電車だからまたな」

「うん、バイバイ」


…寺山くんに告白された。

私って、誰が好きなんだろう。

身近に男の子って、拓しかいないし…。

拓…。

私、拓のことが好きなのかな。

…その夜は、色々なことがありすぎてなかなか眠れなかった。