ドレイクさんは顎に手を当てて答える。


「隣国はさいきん新たな貿易相手と取り引きを始めたようですが、目的地までの移動にわざわざアルソートの海域を通航しているんです。一応向こうは商業目的だと主張していますが、はっきり言って信用ゼロですね」


ぺらりと差し出された紙は、貿易の取り引き相手や担当者までも記されてある。こんな事細かな情報、どうやって持ってくるんだろう?

ドレイクさんを羨望の眼差しで見つめると、視線に気付いたようで、不敵に笑う。


「城は警備が厳しいのでさすがにキツいですが、港の支部だと役人に化けて潜り込むくらい造作もないんですよ。保管の順番さえ記憶すれば書類を盗み見たところでバレないし、指紋も残しませんから」


さすがプロ。だいぶ手慣れているようだ。黒い手袋は情報屋にとって必需品らしい。

凄腕の情報屋の仕事ぶりに感動していると、彼は気にさわる出来事を思いだしたように顔をしかめる。


「そういや、隣国の城でダルトンを見かけましたよ。裏社会の動きを探るなら、あの男を尾行したほうが手っ取り早い気がするんですが」

「はは、ずいぶん刺のある言い方だな。読めない人だけど外交の腕は確かだし、仕事も真面目にやってくれているんだ」

「んー、同族嫌悪ですかねぇ。向こうは俺を“レウルの犬”呼ばわりですし。それはまんざらでもないですけど、あの野郎は気に食いません」