まさか、心配してくれたの?

たしかに、背中の火傷を見られた夜に、リガオ家には居場所がないと口にした。政略結婚がなくなれば、唯一認められていた一族での存在価値も消え失せると察してくれたのは納得がいく。

だが、彼は私に興味がある素振りは見せなかったし、言葉通り一週間ともに過ごしただけの赤の他人なのに。


「昨日の夜に考えたんだ。愛なんて不必要だと思う俺と、結婚をビジネスだと割り切っているランシュアなら、ちょうどいいかもしれないと思ってね。新たな妃候補を連れて来られるのも迷惑だし君も実家に帰りづらいとなると、利害は一致しているだろう?」


つまり、仮初めの妻という名の虫よけに使うつもりなのだろうか?

こちらとしてはどんな命令をされても問題はないし、反抗するつもりもない。

気持ちを伝え慣れていないせいで返す言葉が見つからないでいると、目線に合わせて屈んだ彼が薄い唇を動かした。


「こんな理由で迎えに来られるのは嫌か?」


心が震える。

そんなの答えはわかりきっているのに。あなたが来てくれなかったら、この先の人生は真っ暗だった。いくら感謝しても足りないし、恩を返す術もない。

そっと頬に手を添えられた。白い手袋が優しく肌を撫でる。


「寒くないか?怖かったな」