『君は誰よりも素直で強い子だ。今まで、ずっとひとりで頑張ってきたんだろう?』


頭の奥で響くのは陛下の声。

ごめんなさい。私はそんなセリフを言ってもらえる人じゃありませんでした。頑張っても頑張っても、居場所なんてもらえないんです。


「来い」


乱暴に腕を持ち上げられた。力づくで立たされると、デーネさんの向かう先に小さな馬車が見える。

もう、人生にひかれたレールからは逃れられないんだ。このまま、隣国の商人のもとへ連れて行かれる。


「待て」


絶望に目を閉じた瞬間、肩を抱かれた。

視界に映ったのは白い手袋。細やかな装飾が施されたジャケットを羽織る彼は、ここにいるはずのないレウル陛下だ。

信じられないものの、手袋越しに伝わる体温は夢ではない。


「本物の陛下なのか!?」

「嘘!一体どうして…!」


一族はざわめきだすが、鋭い視線を向けられて一瞬で押し黙る。

陛下は低い声で言葉を続けた。


「デーネさん、だったか?彼女をどこへ連れていくつもりだ?」