冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい


その時、玄関先の喧騒を聞きつけた一族がぞろぞろと外へ出てきた。びしょ濡れで立つ姿をみて、軽蔑する者もあざ笑う者もいる。


「ねぇ、言ったでしょう?この子に期待するのは無駄だって。一度陛下に振られたら、他の貴族だって相手にしてくれないわ」

「政略結婚として使えないなら、もう隣国に下働きとして売るしかないんじゃない?この娘は、見た目だけは人目を引くだろうし」


平然と口にされた言葉に、ぞっとした。

労働者としての人身売買はアルソート国で禁じられている。だが、法の目をかい潜るように隣国へ売られる話も耳にしていた。

その未来は決して明るくない。


「待ってください!一生懸命働きますから!この家に置いてください」


必死にデーネさんにしがみつくと、勢いよく振り払われた。バランスを崩して地面に倒れ込み、濡れた服に土が溶ける。

感情が凍てついて涙も出ない。

あぁ。いっそ、家に戻らずにどこか遠くへ逃げればよかった。行く場所がなくても、下働きとして売り飛ばされるよりはずっとマシだ。

弱くて臆病で、いつまでも家のしがらみに囚われていた私の人生はこれで終わり。

ひとつも幸せな思い出はできなかった。