その時、玄関先の喧騒を聞きつけた一族がぞろぞろと外へ出てきた。びしょ濡れで立つ姿をみて、軽蔑する者もあざ笑う者もいる。
「ねぇ、言ったでしょう?この子に期待するのは無駄だって。一度陛下に振られたら、他の貴族だって相手にしてくれないわ」
「政略結婚として使えないなら、もう隣国に下働きとして売るしかないんじゃない?この娘は、見た目だけは人目を引くだろうし」
平然と口にされた言葉に、ぞっとした。
労働者としての人身売買はアルソート国で禁じられている。だが、法の目をかい潜るように隣国へ売られる話も耳にしていた。
その未来は決して明るくない。
「待ってください!一生懸命働きますから!この家に置いてください」
必死にデーネさんにしがみつくと、勢いよく振り払われた。バランスを崩して地面に倒れ込み、濡れた服に土が溶ける。
感情が凍てついて涙も出ない。
あぁ。いっそ、家に戻らずにどこか遠くへ逃げればよかった。行く場所がなくても、下働きとして売り飛ばされるよりはずっとマシだ。
弱くて臆病で、いつまでも家のしがらみに囚われていた私の人生はこれで終わり。
ひとつも幸せな思い出はできなかった。


