冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい


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「送っていただいてありがとうございました」


御者(ぎょしゃ)の男性に挨拶をすると、馬車は元来た道を走り出した。

視界に広がるのは、栄えている王都とはかけ離れた辺境の町。ついに帰ってきたのだ。

離れていたのは一週間だけとはいえ、舗装されていない砂利道が懐かしい。城を出る前にカリーヌがピカピカに磨いてくれた靴にはもう泥がついていた。

活気のない町の中心に建つ寂れた屋敷。震える足をなんとか動かし歩いていると、門の前に鬼のような形相の男が立っているのが見えた。

リガオ家の当主、デーネさんだ。

目が合った瞬間、恐怖でヒュッと喉が音を立てる。


「ずいぶんと早く帰ってきたな。よく顔を見せられたもんだ」


声のトーンは、冷酷非情と名高いレウル陛下の何十倍も冷たい。

返事をする間もなく、バシャン!と冷たい水をかけられる。目の前で桶をひっくり返され、動揺と衝撃で言葉も出なかった。


「この役立たずが!何のためにお前を今まで育てたと思っているんだ。どんな手を使ってでも陛下を射止めろと命令しただろう」

「ご、ごめんなさい。これから、少しでも恩を返せるように働き口を探します。ちゃんとお金を稼いでくるので」