冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい


それは同情なんかではなかった。

そのセリフにどんな意味があるのかはわからない。だけど、確かに私と彼が背負うものは通じていると感じる。


「前に、人形だなんて言って悪かった。君は誰よりも素直で強い子だ。今まで、ずっとひとりで頑張ってきたんだろう?」


水面に小石を投げ込まれたように心が震えた。

すとんと落ちてきたそれは、とても優しくて温かい。こんな言葉をかけてくれる人はいなかった。初めて理解してくれたのが、冷酷非情と噂される陛下だなんて。

感情を悟らせない微笑に、濡れた前髪から滴が落ちた。頬を伝う水は涙のようで、決して誰にも見せない弱さをみたような気持ちになる。


あぁ、すごいな。

一番初めに彼を青い薔薇と呼んだ人は、なんて相応しい異名をつけたんだろう。これほどまでにその形容が似合う男はいない。

雨に降られたような一輪の薔薇はどこか寂しげで儚くて、傷つくだけだとわかっているのに手を伸ばさずにはいられなかった。


気づけば、したたる滴を指で拭っていた。驚いたような表情が目に映り、はっ!と我にかえる。


「ごめんなさい、勝手に触ったりして」


あわてて離れようとした瞬間、手を掴まれた。

覗き込むように距離を縮める彼。ふたりの間に会話はない。