冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい


ーーカタン。


かすかに、小さな音が耳に届いた。

若干のぼせ気味の体を起こし、ぼんやりと音の方を見る。湯けむりの中に背の高いシルエットが浮かび上がった瞬間、お互いの視線がぶつかり、呼吸が止まった。

細く引き締まった体。程よく筋肉のついた男らしい上半身がはっきりと視界に映る。それは紛れもなく陛下だった。


嘘、どうして?

今夜は視察先に泊まって帰らないと聞いていたのに。突然予定が変更になったの?


混乱して見つめていると、ぱっと目を逸らされた。その仕草で唐突に理解する。向こうはかろうじて湯着を着ているが、こっちは布一枚もつけていない。

最悪だ。

急いで湯の中へ沈む。と言っても、お湯に濁りなどなく、さらには唯一の出口が彼の方にあるため逃げだすこともできなかった。それに、体を隠そうと背を向ければ醜い火傷の痕が見られてしまう。

体が異常に熱かった。のぼせたからか恥ずかしいからか、それすらもわからない。

あれ?おかしい、頭がクラクラする。

自覚した途端、体重を支えていた手がずるりと滑って重い体が湯の中へ沈んでいく。遠くでレウル様の声が聞こえた気がしたが、意識が遠のいて返事が出来なかった。