しかし、問題はレウル様だった。
トラウマから薔薇を嫌っている彼は喜ばないかもしれない。
そう思って気にしていたが、予想に反し、穏やかな表情で薔薇園を見つめていた。
「行こうか」
案内のために握っていた手を引かれ、薔薇園のアーチをくぐる。
私はあわてて声をかけた。
「中へ入っても大丈夫なのですか?」
「平気だ。ランシュアがせっかく素敵な場所を用意してくれたんだから、外から見るだけなんてもったいない」
とくんと胸が鳴る。
所々ランプが灯るれんが造りの道を歩くと、ふたり掛けのベンチがある。ボロボロになっていたものを新しくして、白いペンキを塗った。
むせ返るような薔薇の香りに包まれた空間は、とても幻想的でロマンチックだ。夜闇を背景に浮かび上がる、赤やピンク、白や紫の花。淡いランプの光がスポットライトのようで、うっとりしてしまう。
その光景をバックに立つ彼も麗しい。
並んで腰を下ろすと、レウル様は近くの薔薇を見つめて呟く。
「幼い頃は、よくこの庭で遊んでいたんだ。出生を知ってからは、不幸の象徴のように思ってきたけど……こんなに美しい花だったんだな」
「はい、とても綺麗です。実は、少し心配していました。薔薇園を整備しても、レウル様は嬉しくないかもしれないと思っていたので」
「そんなことないよ。ありがとう。とても気に入った。ここは逢瀬にちょうど良いな」
「そ、それを期待して準備をしたわけではないのですが」
「はは。わかっている」


