冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい


しかし、問題はレウル様だった。

トラウマから薔薇を嫌っている彼は喜ばないかもしれない。

そう思って気にしていたが、予想に反し、穏やかな表情で薔薇園を見つめていた。


「行こうか」


案内のために握っていた手を引かれ、薔薇園のアーチをくぐる。

私はあわてて声をかけた。


「中へ入っても大丈夫なのですか?」

「平気だ。ランシュアがせっかく素敵な場所を用意してくれたんだから、外から見るだけなんてもったいない」


とくんと胸が鳴る。

所々ランプが灯るれんが造りの道を歩くと、ふたり掛けのベンチがある。ボロボロになっていたものを新しくして、白いペンキを塗った。

むせ返るような薔薇の香りに包まれた空間は、とても幻想的でロマンチックだ。夜闇を背景に浮かび上がる、赤やピンク、白や紫の花。淡いランプの光がスポットライトのようで、うっとりしてしまう。

その光景をバックに立つ彼も麗しい。

並んで腰を下ろすと、レウル様は近くの薔薇を見つめて呟く。


「幼い頃は、よくこの庭で遊んでいたんだ。出生を知ってからは、不幸の象徴のように思ってきたけど……こんなに美しい花だったんだな」

「はい、とても綺麗です。実は、少し心配していました。薔薇園を整備しても、レウル様は嬉しくないかもしれないと思っていたので」

「そんなことないよ。ありがとう。とても気に入った。ここは逢瀬にちょうど良いな」

「そ、それを期待して準備をしたわけではないのですが」

「はは。わかっている」