まったく情報を与えられずに呼ばれた私は、黙って様子を見守った。
すると、手にしたのは執務室の花瓶に生けられていた真紅の薔薇。
あんなところに花瓶なんてあっただろうか?薔薇が苦手だと言っていた陛下が自分で用意したとすれば、なんらかの意図があるはずだ。
しかし、どうにも読めない。
同じく困惑した様子のダルトンさん。
そんな叔父に向け、感情を隠した声が響く。
「薔薇は好きか?“ダルトン”」
一気に張り詰める空気。
そのトーンは震えるほど恐ろしく、鋭い視線の威圧感は獰猛なオオカミのようで、まさしく冷酷非情の青い薔薇だと噂されたレウル=クロウィドそのものだ。
久しく顔を出していなかった一面に、臣下のふたりでさえ気圧されている。
「……まさか、その薔薇は……」
顔色を変えたダルトンさんが、耳を澄まさなければ聞こえないほどの声で呟いた。
状況が掴めない私をよそに、一歩ずつ歩み寄るレウル様。
距離が近づくたびに、ダルトンさんの顔から血の気が引いていく。ぎこちなく後退りをして、腰が抜けたように尻もちをついた。
「ま、待て。早まるな。それだけはやめてくれ」
もはやさっきまでの余裕はなく、敬語も忘れて必死に懇願しているようだ。
すると次の瞬間、レウル様が勢いよく薔薇を持つ手を振り上げた。ダルトンさんに向かって無数の刺が光る。
「ぎゃあっ!」


