冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい



まったく情報を与えられずに呼ばれた私は、黙って様子を見守った。

すると、手にしたのは執務室の花瓶に生けられていた真紅の薔薇。

あんなところに花瓶なんてあっただろうか?薔薇が苦手だと言っていた陛下が自分で用意したとすれば、なんらかの意図があるはずだ。

しかし、どうにも読めない。

同じく困惑した様子のダルトンさん。

そんな叔父に向け、感情を隠した声が響く。


「薔薇は好きか?“ダルトン”」


一気に張り詰める空気。

そのトーンは震えるほど恐ろしく、鋭い視線の威圧感は獰猛なオオカミのようで、まさしく冷酷非情の青い薔薇だと噂されたレウル=クロウィドそのものだ。

久しく顔を出していなかった一面に、臣下のふたりでさえ気圧されている。


「……まさか、その薔薇は……」


顔色を変えたダルトンさんが、耳を澄まさなければ聞こえないほどの声で呟いた。

状況が掴めない私をよそに、一歩ずつ歩み寄るレウル様。

距離が近づくたびに、ダルトンさんの顔から血の気が引いていく。ぎこちなく後退りをして、腰が抜けたように尻もちをついた。


「ま、待て。早まるな。それだけはやめてくれ」


もはやさっきまでの余裕はなく、敬語も忘れて必死に懇願しているようだ。

すると次の瞬間、レウル様が勢いよく薔薇を持つ手を振り上げた。ダルトンさんに向かって無数の刺が光る。


「ぎゃあっ!」