冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい



好きになってもらわなくても結構と告げたのを覚えているらしい。

自分の意思はとっくに捨ててしまった。いつの日からか意見を言おうとする心もなくなり、ただ淡々と指示された仕事をこなすようになっていた。

でも、生きるためにはそうする他なかったのだ。


「私はリガオ家に恩があるんです。役に立てなければ生きている意味がないから……クロウィド陛下に認めてもらえるように何でもこなしてみせます」

「まさか、これからもただの小間使いのように働くつもりで?」

「陛下がそれをお望みならば」


愛がないのなら、ここにいる存在価値は仕事面で証明するしかない。

政略結婚の道具として使えるように語学は教え込まれてきたし、王宮独自のマナーや所作を覚える必要があるなら徹底的に叩き込む覚悟はある。陛下に本当に好きな人ができたら側室を作ったっていい。

せめて邪魔にならないように、任された仕事はしっかり遂行してみせる。ビジネスと割り切った方が相手も楽だろう。


「君は、俺が命令すればなんでもするのか?」

「はい」


それは迷いない返答だった。

揺らぐはずがない。ずっと自分の心を押し殺してきたのだから。結婚相手として認めてもらうためには“使えるやつだ”と思われないと。

聞こえたのは小さなため息。骨ばった男らしい手がソファに置いた私の手に重なる。

絡められた指は、薔薇園で掴まれたときとはまるで違った。


「陛下……?」


戸惑いながら呟くと、感情を悟らせない声が響く。


「本気で俺を落とすつもりなら誘ってみせて」

「え?」

「意味、わかるだろう?」