もしもレウル様が幼い頃に王族の血を一滴も継がないと周囲に話が漏れれば、居場所を奪われてしまっていただろう。
王と、王妃と、エルネス大臣だけが秘密を共有し、いずれ真相が明るみに出るまで隠し通そうとしたのである。
先代の王は怖かったのかもしれない。父親だと思ってきた男のせいで両親を失ったと知れば、レウル様は想像もできないほど傷つくはずだ。
懺悔の気持ちがあったにしろ、息子として育ててきた彼に恨まれるのを、心のどこかで恐れていたとしても不思議ではない。
そして、ただひとり残された秘密の共有者であるエルネス大臣は、すべてを心のうちに秘めて王宮で育てられた孤児を見守ってきた。
微笑みの仮面はレウル様の専売特許ではなく、大臣もまた、その裏に真実を隠して生きてきたのだ。
「エルネス。なぜ、このタイミングで俺に過去の話をする気になったんだ?口止めされていたんだろう?」
「今なら伝えても大丈夫だと思ったのです。陛下には、ランシュア様がいらっしゃいますので」
私?
目を丸くすると、エルネス大臣は柔らかく微笑んで続けた。
「以前の陛下なら、正義感が強いあまり、血の繋がりもない自分は王でいる資格がないと姿を消す可能性があると危惧しておりました」
それを聞いたレウル様は苦笑する。
「否定はしないよ。愛人の子であるのもコンプレックスだったのに、それすらも嘘だと知れば、ダルトンさんに王位を譲っていたかもな」
「えぇ。ですが、ランシュア様がいてくだされば、陛下は自分の出生を知っても受けとめられると思いました」
ターコイズブルーの瞳と目があった。
私の存在が支えになる?そんな力が自分にあるのだろうか。
すると、レウル様はゆっくりと私の手をとった。繋がりを確かめるように握り、微笑を浮かべる。
「そうだな。ランシュアが共に背負うと言ってくれたからここまで来れた。俺はもう、ひとりじゃないから」


