耳元にふっと軽く息がかけられた。首から後頭部にかけてガッチリ支えられているため、飛び退けない。

予想外の出来事につい声をあげると、くすくすと楽しそうな笑い声が聞こえた。


「相変わらず無防備だな」

「な、内緒話は?」

「引きつけるためのただの口実。緊張は解けたか?」


気づいたらそのまま抱きこまれ、腕の中に倒れ込んだ。患者衣のガウンが思ったよりも薄く、胸板の感触が布越しに伝わってくる。


「いけません、怪我が治っていないのに。それに、誰かが来たら……」

「もう傷は塞がっているし、問題ない。ランシュアが声を出せば、護衛が入ってくるかもしれないけどな」


甘くささやかれたセリフ。

これはちょっといじわるな顔だ。

まずい。非常にまずい。

病室でいちゃいちゃしてたなんてバレたら陛下の威厳に関わる……というか、普通に恥ずかしい。


「だめです。こういうのは、せめて退院してからじゃないと」

「退院したらいいのか?」


あぁ、困った。

以前の私なら、そういうのはビジネスに含まれません、とか言ってかわせただろうが、今は少しだけ期待してしまう。優しく触れられて、熱っぽい視線で見つめられて、その心地よさを知ってしまった。

今までは、じゃれるようなキスに翻弄されていただけ。スキンシップが多いわりに手を出してこない彼は、口づけ以上を本気で求めたりはしない。

はしたない期待に気づかれたら、どう思うだろう?