冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい



ふと、視界にあるものが映った。

あきらかに周囲とは違う雰囲気の庭園。城から少し離れたところにひっそりと建つ小さなアーチの奥は、目を疑うような光景が広がっている。

元の色もわからないほど枯れ果てた花だ。茎に目をやると、無数のトゲが見えた。

これは薔薇?

辺りを見渡すと、人が立ち入った形跡がない。長い間ほったらかしにされているようだ。どうしてここだけ荒れ果てているのだろう。

眉を寄せながら眺めていると、ツルバラの根本に生えた芽に気づく。ローズヒップが弾けて自生した野薔薇だ。日光を遮られたら育たなくなるかもしれない。

そんな考えが頭をよぎり、絡み合ったツルへと手を伸ばした。

手袋やハサミがあった方が勝手はいいのだろうが、わざわざ使用人に頼むのも気が引ける。これまでも誰にも頼らず雑用をこなしてきたのだ。ひとりでどうにかやってみよう。

葉を取るようにかき分けていると手の甲や腕に無数の傷がついた。しかし、猫に引っかかれたような小さな痕はあまり痛みを感じない。

極寒の中で洗濯や皿洗いをさせられてあかぎれた時に比べたらどうってことないわ。この庭園をキレイに整えられたら、陛下も認めてくれるかもしれないし……


「そこでなにをしている」