一気に書斎が緊張感に包まれた。
エルネス大臣の話では、商船の炎上事件はレウル陛下の指示であったとのタレコミがあり、ハルトヴィッヒ王が永世中立国であるサメノア国の国際裁判機関に訴えたそうだ。
その訴えの中で動機として挙げられたのは先日の夜会での一件。
“アルソート側から持ちかけられた理不尽な貿易を断ったため、思い通りに事が運ばなかった腹いせとして商船を燃やされた”という主張らしい。
もちろん、話を持ちかけてきたのは隣国であり、立場が逆だ。当事者であるハルトヴィッヒ王はそれを一番わかっているはずである。
しかし、夜会でのやり取りはふたりきりで行われた上に、他国の要人が多く集まる会場でレウル様は私を庇って鋭い視線を周囲に向けた。妃に恥をかかされて無礼な仕打ちを受けたことも、動機のひとつとして捉えられてしまったのだ。
青ざめながら陛下に尋ねる。
「まさか、倉庫にあった火薬は、自国の商船を燃やすための準備だったのでしょうか?」
「おそらくな。他国を味方につけた上で、その罪をアルソートにかぶせるつもりなんだろう」


