きゅっと軽く彼のシャツを掴む。ゆるく頭を撫でていた指に力がこもった。
甘い予感に目を閉じると、軽く唇が触れ合う。ついばむような優しいキスだ。恋人でもない男性にされているのに、なぜだか嫌じゃない。
この人だから許せるのだろうか?
余韻の後、様子をうかがうようにまぶたを上げると、向こうも長いまつ毛を伏せたまま薄く目を開けていた。
「手のひらで口封じしなくていいのか」
「ま、まだ続けるおつもりですか?」
「弱っているところにつけ込むようで嫌だけど、君に煽られてしまったから」
煽ったつもりはないのに。
もしかして、私は無意識にとんでもなく恥ずかしいセリフを口にした?
先ほどの自分のセリフを反芻して、ぱっ!とシャツから手を離すが、彼はすかさずその手を握る。
「俺のシャツを掴んでていい。腕を回してもいいけど」
「えっ!それは」
「あと、苦しくなるから、ちゃんと息をして」
書斎でのキスといい、今といい、呼吸を止めていると気づいていたらしい。
色気を帯びた視線にとらわれ、噛みつくように唇を奪われる。
慣れない息継ぎ。気を抜けば変な声をだしてしまいそうで、うまくできない。その一方、彼は私に合わせながらも誘うように柔らかな舌で唇をなぞり、吐息を漏らそうとしてくる。
加減してくれているようだが、だんだんと深くなる口づけに胸板を押した。
「っ、これ以上はだめです」
聞こえているにも関わらず、止まろうとしない。吐息まじりのささやきとともに、後頭部を包む指で軽く耳をなぞられた。
「嫌ならやめる。だめならやめない」


