冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい


きゅっと軽く彼のシャツを掴む。ゆるく頭を撫でていた指に力がこもった。

甘い予感に目を閉じると、軽く唇が触れ合う。ついばむような優しいキスだ。恋人でもない男性にされているのに、なぜだか嫌じゃない。

この人だから許せるのだろうか?

余韻の後、様子をうかがうようにまぶたを上げると、向こうも長いまつ毛を伏せたまま薄く目を開けていた。


「手のひらで口封じしなくていいのか」

「ま、まだ続けるおつもりですか?」

「弱っているところにつけ込むようで嫌だけど、君に煽られてしまったから」


煽ったつもりはないのに。

もしかして、私は無意識にとんでもなく恥ずかしいセリフを口にした?

先ほどの自分のセリフを反芻(はんすう)して、ぱっ!とシャツから手を離すが、彼はすかさずその手を握る。


「俺のシャツを掴んでていい。腕を回してもいいけど」

「えっ!それは」

「あと、苦しくなるから、ちゃんと息をして」


書斎でのキスといい、今といい、呼吸を止めていると気づいていたらしい。

色気を帯びた視線にとらわれ、噛みつくように唇を奪われる。

慣れない息継ぎ。気を抜けば変な声をだしてしまいそうで、うまくできない。その一方、彼は私に合わせながらも誘うように柔らかな舌で唇をなぞり、吐息を漏らそうとしてくる。

加減してくれているようだが、だんだんと深くなる口づけに胸板を押した。


「っ、これ以上はだめです」


聞こえているにも関わらず、止まろうとしない。吐息まじりのささやきとともに、後頭部を包む指で軽く耳をなぞられた。


「嫌ならやめる。だめならやめない」