冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい



「そういえば、クモに気づく前に男の人と話しました」

「男?」

「はい。なまりがあって言葉は聞き取れなかったのですがハルトヴィッヒ王を探していたようで、会場を出たと告げたら、肩に手を置かれたんです」


まさか、あの人が?

いや、可能性はないと言い切れないにしても動機が不明だ。あきらかに初対面だったし、罠を仕掛けてなんの得があるのだろう?こうやって疑うのも考えすぎなのか?

小さく息を吐いた彼はバサリと上着を脱いで私にかけた。背中にまわった腕に抱き寄せられ、肩にもたれかかる。


「今夜の出来事は全部忘れて。なにが起きてもどうにかするから。嫌な思いをさせたな」


会場での怒気を帯びた声とはまるで違う優しい口調。


「どうしてあの場で怒ってくださったのですか?事を荒立てないように、おさめられたかもしれないのに」


予測不能の事態に見舞われても、彼は今まで完璧な紳士対応でトラブルを乗り切ってきた。何事にも動じないのは一国の主として相応しい冷静な振る舞いだ。それが、あんなに怒りを露わにするなんて。

すると、背中にまわっていた手がゆるやかに後頭部を包んだ。骨張った長い指が繊細な手つきで撫でる。


「大切な人が傷つけられたら怒るのは当然だろう?無神経に君へジロジロ視線を向けるやつらを見たら、つい頭に血がのぼってしまった」