冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい


『あの、すみません。私あまりうまく話せなくて。ハルトヴィッヒ王なら先ほど会場の外へ出て行かれましたよ』


当てずっぽうながらもそう答えると、ぱっ!と表情を明るくした男性は、優しく肩に手を置いた。


『あぁ、悪いね』


最後にそう言い残し、満足げに手を振りながら去っていく背中。嵐のような人だった。本当にハルトヴィッヒ王の行方を探していたのだろうか?

しかし、なんとか場をしのぎ落ち着いたと思ったのも束の間。手元のグラスに視線を落とした私は、視界に映った“それ”に息が止まる。


「きゃっ!?」


右腕についていたのは小さなクモ。ストールの上を動くシルエットに思わず声が出た。

どうしてこんなところに?一体いつから?気持ち悪い!

動揺のあまり指の間からグラスがすり抜ける。床に落ちた瞬間パリン!と乾いた音が響き、周りのゲストの視線が集まった。

給仕係のメイドが素早く駆け寄る。


『ランシュア様、いかがされましたか』


彼女はクモの存在に気付いたらしい。

青ざめる私に手を伸ばした。


『外でクモを払ってまいります。ストールを脱いでいただけますか』