『あの、すみません。私あまりうまく話せなくて。ハルトヴィッヒ王なら先ほど会場の外へ出て行かれましたよ』
当てずっぽうながらもそう答えると、ぱっ!と表情を明るくした男性は、優しく肩に手を置いた。
『あぁ、悪いね』
最後にそう言い残し、満足げに手を振りながら去っていく背中。嵐のような人だった。本当にハルトヴィッヒ王の行方を探していたのだろうか?
しかし、なんとか場をしのぎ落ち着いたと思ったのも束の間。手元のグラスに視線を落とした私は、視界に映った“それ”に息が止まる。
「きゃっ!?」
右腕についていたのは小さなクモ。ストールの上を動くシルエットに思わず声が出た。
どうしてこんなところに?一体いつから?気持ち悪い!
動揺のあまり指の間からグラスがすり抜ける。床に落ちた瞬間パリン!と乾いた音が響き、周りのゲストの視線が集まった。
給仕係のメイドが素早く駆け寄る。
『ランシュア様、いかがされましたか』
彼女はクモの存在に気付いたらしい。
青ざめる私に手を伸ばした。
『外でクモを払ってまいります。ストールを脱いでいただけますか』


