その時、低く凛とした声が聞こえた。
『レウル王。お久しぶりですね』
振り向くと、そこには六十代くらいの男性が立っていた。長く伸びた白髪に豊かな白ひげ。ルビーやエメラルドの首飾りは一目見ただけで高級品だとわかる。
『あぁ、ハルトヴィッヒ王。本日はお招きありがとうございます。こちらから挨拶にうかがおうと思っておりました』
『いえいえ、お会いできて光栄です』
その名前に、はっ!とする。
目の前の男性は隣国の王だ。
やや緊張感のある空気が漂う。
『あぁ、あなたがランシュア様ですね。お噂はかねがねうかがっております。正式にご婚約なされたそうで、おめでとうございます』
『ありがとうございます。ランシュアと申します。お初にお目にかかります』
『ご丁寧にどうも。私はハルトヴィッヒです。以後お見知りおきを』
夜会に向けて仕込んだ発音はうまく伝わったようだ。柔和な物腰だが放つオーラは先ほどまで話しかけてきた人達とは桁違いだった。
自然と背筋が伸びたとき、ハルトヴィッヒ王がわずかに眉を寄せる。
『おや、ランシュア様。会場の空調が合いませんか?冷えるようでしたら給仕に温かい飲み物を持って来させますが』


