冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい


その時、低く凛とした声が聞こえた。


『レウル王。お久しぶりですね』


振り向くと、そこには六十代くらいの男性が立っていた。長く伸びた白髪に豊かな白ひげ。ルビーやエメラルドの首飾りは一目見ただけで高級品だとわかる。


『あぁ、ハルトヴィッヒ王。本日はお招きありがとうございます。こちらから挨拶にうかがおうと思っておりました』

『いえいえ、お会いできて光栄です』


その名前に、はっ!とする。

目の前の男性は隣国の王だ。

やや緊張感のある空気が漂う。


『あぁ、あなたがランシュア様ですね。お噂はかねがねうかがっております。正式にご婚約なされたそうで、おめでとうございます』

『ありがとうございます。ランシュアと申します。お初にお目にかかります』

『ご丁寧にどうも。私はハルトヴィッヒです。以後お見知りおきを』


夜会に向けて仕込んだ発音はうまく伝わったようだ。柔和な物腰だが放つオーラは先ほどまで話しかけてきた人達とは桁違いだった。

自然と背筋が伸びたとき、ハルトヴィッヒ王がわずかに眉を寄せる。


『おや、ランシュア様。会場の空調が合いませんか?冷えるようでしたら給仕に温かい飲み物を持って来させますが』