冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい


つぅっと一瞬頬を指で撫でられ、肩がはねた。

この人は……っ!こんな場所でも隙あらば攻めてくる!

思わず身構えると、彼は楽しそうにグラスに口をつけた。“敵国に忍び込んでいるようなものなんだから、もう少し緊張感を持って”と視線を送るが、相変わらずさらりと受け流される。

底知れない陛下のことだから、実際は頭を高速で回転させているのかもしれないが。


やがて、各国の要人たちが次々と挨拶をしにやって来た。

政略結婚の道具として語学を叩き込まれてきたためなんとか理解はできるが、進んで会話に混じるレベルではない。そのため、ペラペラと話をするレウル様に任せて会釈しかできなかった。

夜会が始まってから二時間。挨拶をしてくる人は絶えず、改めて陛下の影響力の大きさを実感する。

要人達は皆、友好的に話しかけてきて、隣の彼もにこやかに返しているようだ。しかし、これみよがしに外交の話を推し進めようとしないのは、青い薔薇と呼ばれるアルソートの王を畏怖しているからなのだろう。

近づかずとも遠巻きにこちらの様子をうかがっている要人もいるようで、まさに夜会は様々な陰謀が渦巻いているように見える。