冷酷陛下は十三番目の妃候補に愛されたい


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「お嬢さん、馬車の手配が済みました。準備は整いましたか?」


夜会当日。

午後四時を過ぎた頃、部屋を訪れたドレイクさんに声をかけられた。フォーマルなタキシードに身を包んだ彼は普段より落ち着いた印象だが、黒髪オールバックは威圧感が拭い切れない。

頼もしい護衛に連れられて城の門に向かうと、ホワイトタイの燕尾服を着こなしたレウル様が待っていた。見送りのエルネス大臣も控えている。


「おぉ、ランシュア様。本日は一段とお美しいです。やはり、ドレスがよくお似合いですな」


顔を綻ばせた大臣につられ、陛下もこちらを振り向く。すると、その瞳が大きく見開かれた。

髪はアップにまとめ、くるぶし丈の深い青のイブニングドレスは肩や胸元の露出が多い。薄手のストールを羽織っているが、言いたいことはひしひしと伝わる。


“もし、背中を見られたら”


私は、陛下に歩み寄って小さく告げた。


「夜会では首元や背中があいたイブニングドレスが最上級の礼儀だと聞いて、ドレスコードに従いました」

「うん、たしかにそうだな。でも、君が嫌なら今からでも違うドレスを手配するよ。着替えはひとりでしたのか?」


その問いに、こくりと頷く。

ストールの下には、肩から背中にかけて視線を向けるのもはばかられる火傷の痕がある。