思い出せて良かったと安心したのも束の間。
「姫野さんは俺と付き合ってるってうわさが流れるのは嫌?」
橘くんはやけに真剣な表情で質問してきた。
嫌というよりは、正直……。
「た、橘くんに申し訳なくて……こんな私と誤解されていることが」
本当はもっとお似合いの人がいるのに。
憧れを抱いている橘くんの存在は、手が届かないほど遠いのである。
それなのに今、近くにいることが不思議でたまらない。
その瞳には私しか映っていないのだ。
「俺は嬉しいのにな」
「……え」
「姫野さんとのうわさが流れて」
「どうして、ですか……?」
嬉しいと思うだなんて、あり得るはずがない。



