「俺より遠いんだね」
「橘くんは……あっ、いや……なんでもないです!」
私が橘くんのことを知ろうだなんて、失礼にもほどがある。
慌てて口を閉じたけれど、質問内容が伝わってしまったようで、橘くんはすぐに答えてくれた。
どうやら私より橘くんの最寄駅のほうが学校に近くて、15分ほどで着くらしい。
ただ駅から家まで少し歩くとのことだった。
そんなのぜんぜん平気だ。
今はこの、周りの視線から逃れたい一心である。
その思いが神様に届いたのか、すぐに電車がやってきて。
まさか橘くんと一緒に帰る日が訪れるだなんて思いもしなかった。
「あの、姫野さん?」
「は、はい……!」
「どうしてそんなに離れるの?」
「えっと、気にしないでください!」
そんなの離れて当然だ。
やはり橘くんのとなりを歩くなど、おそれおおい。
橘くんと反対側のドア前に立ったけれど、早速その行動を指摘されてしまう。



