目を覚まして、
ふと、自分が泣いているのに気がついた。
その涙は悲しいわけではなくて、
ようやく思い出したという、
…なんとも形容し難い、
記憶との再会の感動というべきか…。
起きて、トコトコと歩いてリビングに向かった。
朝から眼鏡をかけて本を読んでいる大河が私の起床に気付いて
「おはよう」と声をかけてくれた。
「おはよう。…ねぇ、大河」
「私、全部思い出したよ」
そう告げると、彼は「そうか」と言って
「先輩に会いに行ける?」
そう、聞いてきた。
「…うん、ヒカリさんに会いたい」
そう微笑みながら言うと、大河もまた嬉しそうに笑って、
「仕方ないな。送ってやる」
そう言いながら眼鏡を外して、
車のキーを手に取った。
2ヶ月ぶりにきた、ヒカリさんの家。
インターフォンを鳴らして、
『…ヒカリさん』
と声をかけた。
長く沈黙が続いて、
『…来たらだめだよ、僕はまだ君への想いを消せてないんだから』
聞こえてきた久しぶりの、
甘く脳裏に響く低音は、唯一私の鼓動を速めるものだ。
私は彼に、こう返す。
『消されたら、困ります。だから開けて』