さっきから何一つ言葉にできない私に、




ヒカリさんは取り繕ったように微笑んで、




「…美影ちゃん、こっちきて。髪乾かそう?」




と言った。






彼が私の髪を優しく乾かすその手は一切変わらないけれど、




私たちの間に前みたいな穏やかな空気は無い。




どうしてだろうか、




得意なはずの気のない笑顔が作れない。






そんなことに悩んでいる間にあっという間に髪を乾かし終わったみたいで、






「…終わったよ」





そう言われて、





「…ありがとうございます」と返した。





驚くほどにそんな私の声には全く温度が無くて、



今、本当に心が乾き切っているのだと悟った。






私がお礼を言ってから、



少しも動く気配がないヒカリさんを不思議な思いそちらを向くと、




「……ごめんね。でも僕、君に拒絶されるのだけは耐えられない」





彼の瞳はもう闇で満ち満ちていて、




彼は私の腕を掴んだかと思うと力強く引っ張って立たせ、





「…来て」





冷たい声で、どこかへ連れていかれる。






その先はこの家にいくつもある扉の1つで、




その中は私ですら見たことのない、





…真っ白な部屋。






広いベッドだけが真ん中にあって、




呼吸には物足りないんじゃないかと思うほど小さい小窓が上に取り付けられている。





…それ以外は、何もない。






彼はポツリと、言い放った。






「…ここから一生出ないでって言ったら、僕を嫌う?」




その声は、




私に縋るような音として、この狭い世界に響いた。