浅葱色の約束。─番外編─





俺は確実に勿体ないことをした。
俺の中のもう1人の俺が言っている。


せっかくの機会、逃してどうすんだ馬鹿───と。


まさか惚れた女の誘いを断るとは自分でも驚いていた。

普段のこいつだったら、世の中がひっくり返ったとしても経験出来ないようなものを。



「慣れねえことすんな。酔った女抱く趣味はねえな」



素面(しらふ)だったら話は別だが。

「今更取り消すなよ」と、無理矢理にでも組み敷いていたことだろう。


すると女は途端に泣き出した。



「私のこと…きらい?」


「そうは言ってねえ」


「こういう女、きらい?」


「それも言ってねえだろ」


「男のままの方が良かった…?」


「なんでそうなる」



これは一種の愛情試しなのかとも思ったが、どうにもそうではないらしい。



「土方さんが思ってること、わたし分かるよ」


「なら言ってみろ」



前髪の隙間から見えた瞳は、初めて出会った頃のガキのように揺れていた。



「土方さんは───…後悔してるの」



いつからこいつをそんな眼差しで見ていたかなんて、もう今となっちゃ分からない。


ただ、だんだんと愛情を知っていく少女に。

そしてその愛情を誰かに渡していく女に、気付けば惹かれていたのは確かで。



「私が可哀想だから……だからここまで良くしてくれて、」


「それで…身寄りも無いからお世話してくれて、」


「本当は今、…あなたは後悔してる……」