その男はそんなものを一瞬で見つけると、眉間にシワを寄せた。
……鬼の副長だ。
“歳三さん”ではなく“土方さん”だ。
「お、おかえりなさいっ!あのね、今日ね───」
彼は言葉もなく私に近付くと。
グイッ───!
「っ…!」
着物の袖で無理矢理に拭き取ってしまった。
ゴシゴシと、せっかく付けた紅はすぐに取れて元通り。
「…全然似合ってねえんだよ」
「……え…、」
「次ふざけた真似してみろ。切腹だからな」
「ただいま」も、なく。
男はそのまま居間へ歩いて行ってしまった。
「ふざけてないのに…」
可愛くして土方さんを出迎えたかっただけなのに…。
せっぷく………せっぷく……。
ポツンと取り残されて、その状況を理解するまで数分かかった。
切腹、とは。
「ど、どうして……?」
土方さん。
今日、私、誕生日だよ。



