そいつの袴から1つの貝殻が床に落ちる。


それに気付いて男はすぐに拾うと、目をパチクリさせている梓を改めてじっと見つめた。

それでもその場を去ろうとした男に仲間達からの冷やかすような笑い声。



「渡さねえのかよ!あんなに梓さんに渡す渡すっつってたのによ!」


「この腰抜けがー!」


「まぁ人妻に手ぇ出そうとするお前も中々凄いけどな!」



そんな冷やかしに胸動かされたのか、男はぐいぐいと梓へ貝殻を押し付けた。

どうしたらいいか分からず俺を見つめてくる女をとりあえず俺も見つめ返し、そして逸らす。



「…いいんじゃねえか。受け取ってやれよ」



女の傷付いたような、それでいて今にも泣き出しそうな顔が一瞬見えた。


だとしても、こいつは受け取らない。

そう思っていたからこそ俺は平気だった。



「…ありがとう…ございます」



予想は大外れ。

梓はゆっくり受け取って笑顔を返した。


俺ですらあげたことがねえようなものをサラッと受け取りやがったこいつに、どうにも腹が立った。