グイッと梓の腕を掴み、引き寄せる。
後頭部を支えるようにして抱き寄せ、柔い髪に頬を寄せた土方は、目の前の女へ鼻で笑ってみせた。
「妹にゃこんなことしねえわな」
商店街から外れた場所だとしても土方が居れば誰もが注目する。
その為、この状況に町人たちはヒソヒソと噂立てを始めた。
この際だ、逆にいいだろう。
それに口をパクパクさせ、顔を真っ赤にするこいつを見るのは俺も嫌いじゃない。
かわいいな、と思う。
「帰るぞ」
「う、うん」
自分より下の、どこにでも居るような女に負けた───。
そんな悲鳴を今にも上げそうな面持ちの女へ、土方は妻の手を引いて少し振り返った。
「それにここはそこまで暑かねえよ。…俺達が居た場所のがもっと暑い」
京の都。
そこが、この2人の出会った場所だ。