「何してんだてめえは」



そんなこったろうと思った───。


男はため息を1つ吐くと、少年が安全だったことに少なからずホッとしているようだった。



「とうちゃん…っ!」


「母ちゃん心配してんぞ」


「かあちゃん、きょう誕生日なのに…」



おれのことなんか、心配しなくてもいいのに───。

男におぶられながら少年は呟いた。



「母親っつうのはそういうモンだ」



あまり笑わないと町で有名な父が、怖いと評判の父が。

それでいて女には人気な父が……笑った。


そんな顔を見れるのは自分と母親だけの特権であり、少し嬉しくなる。



「かあちゃんおこってる?」


「怒っても怖くねえから平気だ。むしろ可愛いくらいだな」


「うんっ」



とうちゃん、おれの前ではいつもこうしてかあちゃんの話をする。

それをかあちゃんに聞かせてやりたいのに「駄目だ」って言われてしまうから。



「もう!心配したんだよ…!」


「ごめんなさい…」


「怪我はない?危ないことはなかった?」



母親はその姿を確認すると、パタパタと駆け寄って少年を抱き締めた。