「…梓、」
優しい声で名前を呼ばれる。
ふわっと包み込むその腕は、不思議にもさっきまでのものと少し違うように感じた。
私だけじゃない、もっと大きくて尊い何かを包み込むようなぬくもり。
そうして土方さんも震える声で言った。
「お前、───…母親になれるぞ」
「……え…?」
一瞬、頭が真っ白になった。
頭の中のキャンバスには今、誰もいない。
だから自分で描くしかない。
まずは私を描いて、その隣に土方さん。
その後ろに近藤さんや沖田さん、朔太郎を描いて。
「……は、……はは……おや………?」
「あぁ、まだ断定は出来ねえがな」
期待の色だ。
キラキラ輝いている目の前の瞳。
「妊娠の初期症状は微熱や吐き気だと聞いたことがある。…月のモンは今月来たか?」
「……きて…ない…」
あぁそうだ。
キャンバス、まだ完成してないから描かなくちゃ。
最後に残るスペースは、私と彼の間。
そこに小さな小さな子供を描いたとき。
まるでそれは、私がずっとずっと憧れていた1つの家族が作られた。



