「慎ちゃん。あのね、お姉ちゃんお話の続き思い出したの」
「え!本当に!?」
男の子は目をキラキラさせ、身を乗り出してくる。
ひそひそと彼に聞こえないよう、そっと耳打ち。
「その鬼さんはね、本当はとってもとっても愛情深くて優しい鬼さんだったんだよ」
そしてその少女と鬼さんはずっとずっと幸せに暮らしたの───。
「すごいねぇー!その鬼さんと女の子、どこにいるのかなぁ」
「もしかしたらすぐ近くに居るかもしれないね」
「うん!」
男の子は嬉しそうに走ってゆく。
その背中をずっと見つめ、再び勝手場へ戻ろうとした腕を。
───グイッ。
優しく引かれ、その鬼さんは少女を抱き締めた。
「…俺の話、してたのか」
「うん。愛情を知らなかった女の子と、怖くて優しい鬼さんの話だよ」
「ふっ、なんだそれ」
離すつもりはないらしい。
首筋に埋められる吐息がくすぐったくて、温かくて。
「もう少しでご飯出来るよ…?」
返事はない。
それどころか腕の力は加わるばかりだ。
「歳三さん…?」
その名前はいつの間にか、こんなにもスムーズに呼ぶことが出来るようになって。



