トントン、コトコト、グツグツ。
そんな音をさせて、冬空の夕暮れ色を見上げた。
今日はお鍋にしよう。
そう思ってきのこやお野菜、お豆腐、お魚を入れて鍋に煮込む。
「お姉ちゃーん!梓お姉ちゃーん!」
トントン、玄関から近所の子が顔を出す。
ふふっと微笑んで「はぁい」と返事をした。
「これ母ちゃんからのお裾分け!」
「わぁ、ありがとう。おばさんにお礼また言わなくちゃ」
少年は腕より大きな大根を預けて、可愛らしい笑顔を浮かべた。
これでまた土方さんの好物の沢庵が作れそう。
お裾分けでいつも貰う大根は、甘く瑞々しく美味しいと近所でも評判だった。
「あれ?鬼さんは?」
少年は玄関の先を覗くようにキョロキョロ見つめる。
かつて私がこの場所に1人で住んでいたとき、彼等の長い長いお話を聞かせていた。
そんな子供達は決まってこの場所にたまに顔を出してくれる。
「誰が鬼さんだ」
「あ!いたー!」
もう、そんなに怖く睨むから“鬼さん”だなんて呼ばれちゃう。
っていうのはたぶん違う。
私が彼のことをずっと“1人の鬼”だと、そう言って物語を話していたからだ。



