『よっしゃ!殴られ屋は今日も通常営業してっかなぁ!』
『俺かなりストレス溜まってるわ!ちょっと今日は手加減無理かも』
『ぎゃははは!お前いつもだろ!!』
本能だった。
悩む暇すらなかった。
ゲラゲラ笑う数人の後ろを、気付けば追いかけていて。
道場のような広い建物の裏側。
日も通らないような暗ったるいそこに辿り着くと、そいつらは誰かを探しているみたいだった。
『お、いたいた』
1人の男が小さな背中に気付く。
その襟元を乱暴に掴まれた小さな背中は、集いの中に放り投げられた。
軽い体は簡単にその場に倒れてしまって。
『さぁ今日も頼むぜ殴られ屋さん』
その姿を目にしたことがあったからこそ、思わず俺はそいつらの元へ走っていた。
───殴られ屋。
そんな誰が考えたかもわからねえような胸糞悪い言葉はあいつ自らも言っていた。
(やめろ、触るな…、そいつに触んじゃねえッ!)
声を発したとしても奴等には聞こえていない。
案の定、そいつ等は踞る少女へ迷わず暴行を加え出す。
『誰から行く?』
『んじゃ俺から』
ガッ!!ドガッ───!!
鈍い音が響く中、出会った当時の幼い梓は頭を抱えるようにして打撃に耐えていた。
泣くことも騒ぐこともせず、そいつは人形のようにされるがまま。



