チャキ───。


俺は腰に差してある刀を鞘から抜く。

その男の前に突き出し、顎で指図した。



「俺は動かねえからてめえから来い」



男は恐怖のあまり息の吸い方を忘れたようだった。

急に咳き込み、腰が砕けたように体をストンと落とす。



「あんた馬鹿だろ…!そんなことしたら死んじまうよ…っ!!」


「当たり前だろうが。突っ込む側はそれ覚悟で来てんだ」



ただ俺を見つめる梓は、今にも泣き出しそうだった。

俺のこんな姿を見て怯えているのではなく。


かつて自分の行った行動をまさか覚えていてくれているとは───。

こいつが思っていることは、そんなとこだろう。



「お前はその女を救う為なら───…自分の首落とされても平気か?」



とうとう男は言葉にもならない様子で首をブンブン横に振る。



「無理に決まっているじゃないか…っ!自分の命が一番大事だ…!」


「そうだ。だが、それでもてめえの誇りの為に、誠の為に…死を選ぶんだよ」



俺達が見てきたものは、いつだってこんなものばかりだった。