じりじりと太陽の光が燃やす季節でも、その土地は比較的涼しい風が吹く住みやすい町だった。


北の大地───。


海の一望出来る商店街は、そんなそよ風につられて潮の香りがふわりと鼻をかすめる。

誰かを待っているように街角に立つ1人の男は、すれ違う女全員の目を簡単に惹いてしまう程の整った顔立ちをしていた。


わりと熟年の女も、若い女も、彼程の魅力のある年頃の女だって。

みんな、その出で立ちに視線を奪われる。



「あんたもあれくらい綺麗な顔してたらよかったんだけどねぇ」


「な、なんでぃっ!俺を選んだのはお前じゃねえか!」



そんな夫婦と思われる会話を耳に、男はふっと笑う。

その姿にボッと顔を赤くさせたのは女だけでなく男の方もだった。



「おぉ…男に見とれたのは初めてだ…」


「…勘弁しろ。俺にそっちの趣味はねえよ」



その声までもが美しい。

低い音だが酒やけたようなものではなく、男らしい中でも聞きやすい程に心地がいいもの。