玄関まで入って
優香は上がらなかった
「入んないの?」
「…はい
カギ、返したかっただけだから…」
「…忘れられた?…オレのこと」
「…はい
ありがとうございました
九條さんといれた数ヶ月
楽しかったです
…
お医者さんと付き合うなんて
めったにないことだし…
…
でも
やっぱり私は合わないのかな…って…」
なんで
そんな明るく言えんの?
別れ話だよね?
「ウソ…
合わないって…ウソでしょ…
…
オレのこと医者だって知らないで
付き合ってくれたじゃん
…
知ってからも
好きって言ってくれただろ…」
「はい…でも、よく考えたら…」
「よく考えたら…って
何考えたの?
…
忘れようって
別れようって
…
考えたって、それだけでしょ
…
オレは考えても考えても
優香が好きで…
…
別れようなんて…考えられなかった
…
医者が嫌だったら、辞めるし…
実家にも帰らない
…
優香が、いい…」
優香の頬を涙が伝った
「…私だって…
私だって、考えたよ…
…
将来、後悔してほしくないな…って
きっと将来一緒にいる人は
お互い、違う人がいんだよ…
…
私は、お店辞めても
お医者さんになんてなれないし…
…
親だって
お医者さんじゃないもん…
…
私は、ふさわしくないから…
無理…
…
一緒に、いれない…」
「お店辞めるって…
優香の夢だったじゃん…」
「だって…だって…
…
一緒にいたくて
いろいろ考えたんだもん…
…
でも…
お店辞めたって
結局、ダメなんだなって…
…
だから
忘れるしか、なかった…」
目の前の優香はボロボロ泣いた
「優香…
抱きしめて、いい…?」
優香は答えなかった
オレは黙って優香を抱きしめた
「…一緒に、いたい…
ホントは一緒にいたい…」
オレの腕の中で優香が言った
「オレも…
…
オレ、夢を持ってる優香を好きになった
…
あの店
優香の味
全部含めて優香が好きだから…
…
辞めるなんて、言わないで…
…
辞めなくても
一緒にいれるから…
大丈夫だよ…
…
ずっと、一緒にいたい…」
オレの胸で泣く優香は
また小さくなった気がした
もともと小さかったのにもっと小さくなった
こんなに痩せて…
ずっとオレのこと考えてくれてたの?
オレの腕から優香がすり抜けた
え…



