私はあいつを絶対に好きにならない

なんで?

柏崎の案で決まりだと思ってた。

まさか、柏崎に援護射撃をしてもらえるなんて思っても見なかった。



 発表を終えた柏崎が、私の頭にポンと一瞬手を置いて、そのまま隣に座った。

なんでかな。
今まで大嫌いだったのに、私の案を褒めてくれたことで、なんだか嫌いだと言えない気分。
私、こんなに単純だったの?




 社内コンペは終了し、結果は後日発表されることになった。私は、資料を片付けて、席を立つ。今回のコンペでは私が1番下なので、プロジェクターなどの片付けを始めた。すると、柏崎も同じように手伝ってくれる。

 私は勇気を振り絞って声を掛けた。

「あの……」

「ん?」

柏崎が手を止める。

「さっきは、私の案を……
 ありがとう」

私がようやくそれだけ言うと、柏崎はふっと笑った。

「何?
 いつもの威勢の良さはどこ行ったんだよ。
 愛の告白でもされるかと思ったじゃん」

柏崎はくすくすと笑みを浮かべながら、コンセントから抜いた延長コードを手につかつかと歩み寄ってくる。

「すっ、するわけ、ないでしょ!?
 なんで、あんたなんかにっ……」

焦ってした反論は声が上ずってしまった。

「そう? 俺は好きなんだけど」

「…………は?」

今、なんて言った?

「俺は、佐山が好きだよ」

う、うそ!?

「ま、また、そうやって私をからかって遊ぶ
 つもり!?」

そんなわけ、ないでしょ?

つかつかと歩み寄る柏崎に気圧されて、私は一歩、また一歩と後ずさる。延長コードをプロジェクターの上に置いた柏崎は、そのままそこで歩を止めず、さらに近づいてくる。

 気付けば、私の背は会議室の壁際まで追いやられていた。

「え…と…
 あの…… 柏崎?」

目の前に立たれると、高身長の柏崎を見上げるには、かなり上を向かなければならない。

「佐山は鈍感だから、気付いてないだろうとは
 思ってたけど。
 俺は、佐山が好きだよ。
 だから、佐山も考えてみてくれないか?」

「か、考えるって、何を?」

「もちろん、俺と付き合うことを。
 佐山、今、男いないだろ?」

トン……と柏崎が私の顔のすぐ左に手をついた。

これ、まさか、壁ドンってやつ!?

「い、いないけど、私、別に、柏崎のこと、
 好きじゃないし」

すると、柏崎は屈んで私の顔を目の前で覗き込んでくる。

ち、近いよ。