ウッカリしていた。
温泉って言ったら、浴衣じゃねえかよ。
俺の方が先に風呂から戻ってきていて、既に部屋食が用意されているテーブルの前でしかめっ面をしているところに、仲居さんがやってくる。
「どうされましたか?」
「あ、いや!なんでもないです! ちょっと考え事を。。。」
「まあ。」
仲居さんは、にこやかに意味深に微笑んで、支度をしに、また部屋の外に出た。

違うんだ。
その、なんだ。
カホの浴衣姿はヤバいだろ。
しかも湯上りだぞ。
たまらなくなって、抱きしめてしまいたくなるに違いない。
大丈夫か。俺。

そうこうしてるうちに、カホが風呂から帰ってきた。
「高岡さん、ゴメンね。お待たせ。」
「………………。」

顔は見れずに、浴衣が擦れる間から、白い素足が見えるだけで、俺の心臓は早く打つ。
恐る恐るカホを見る。
すっぴんで少しほてった頰。濡れた髪が無造作にはねて、浴衣のクロスした首元、少し見える鎖骨。
ダメだ。 思った以上に破壊力抜群のカホの浴衣姿にやられてしまう。
おまえこそ、自分のことをわかっていない。
男の子みたいだって言うけど、その短い襟足と白い肌、めちゃくちゃセクシーなんだって事を。
あまりの揺さぶられように、ついムスッとして無口になり、目をそらす。

「あ、風呂なげーな。ってちょっと怒った顔してる。」
「待ちくたびれた。」
「ゴメンね。だってすごくいいお湯だったんだもん。」
幸せそうに少し顔を傾けて笑うカホを前にして、溢れる想いが制御できなくなる。

「失礼します。」
そこへ仲居さんが声をかけて襖を開ける。
俺は、少し息をついてホッとする。 落ち着け。俺。

仲居さんとカホがいろいろと雑談しながら料理が運ばれ、俺はビールをゆっくり飲んで深呼吸する。