「この間はごめん。」

カホは少し微笑んで俺をまっすぐ見て首を振る。
「元気でしたか?」
……ダメだ。 そのショートカット、すげーかわいい。
あっという間に心が奪われたような気持ちになる。

「髪、切って明るくした。 すごく似合ってるよ。」
その髪に触れたい気持ちをグッと抑える。
カホは、あははって笑って
「ありがとう。でも、ますます幼く見えるでしょ。それにますます男の子に間違えられるようになっちゃった。」
「そうかな。すごくかわいいよ。」
カホは、ちょっと顔を赤くして照れる。
「やだなぁ。高岡さんはそうやってかわいいって言って、いつもかわいいの大安売りですね。」
と、俺の腕のあたりをパンチする。
ちょっと触れただけでも、俺の気持ちは高ぶってしまう。 俺はとっさにカホから目をそらす。
「なんだよ、それ。」
大安売りなんてしていない。ホントにお前がかわいいから、思わず口に出てしまうだけだ。
「高岡さんは、そうやって誰にでも優しいからな。モテモテなんですよ。」
「モテねえよ。」

「えー、だってさっきも女優さんにしなだれかかれてたし?」
カホは、クネっとしておどける。
俺も思わず笑って
「なにしとんじゃ。お前は酔っ払ってんな。」
カホの頭をくしゃくしゃとする。 触れたくて、こんなふうに少し乱暴な仕草をしてしまう。でも、こんなスキンシップだけでもホントは内心ドギマギしてる。

カホは、顔を赤くして膨れて俺をにらむ。
「なにするんですか。ねえ、みんな見てますよ。チキスタの高岡だって。有名人だから。」
と慌ててくしゃくしゃになった髪を直す。
膨れた顔や仕草も可愛い。

「一緒に帰る?」
思わずそんな言葉が出た。

「え、だってこの後まだあるって。」
「ないよ。もう帰るとこ。 」
カホは少し迷って
「うん。私も帰る。」
「いいの?二軒目付き合わなくて。」
「うん、いいです。メッセージだけ送っておきます。ちょっと飲みすぎて気分が悪くなったからやっぱり帰りますって。」
「ふうん。」
「あ、でも高岡さんにお持ち帰りされたなって疑われるかな。」
とブツブツ言いながらいたずらっぽい顔をして、スマホをぽちぽちと打つ。
「大丈夫なの?」
カホは、笑って
「誰もそんなふうに思うわけないじゃないですか? 私のあだ名、今、少年ですよ。ひどいと思いません?髪切ったら、ますます色気なくなったってからかわれてるんです。」
いや、俺はヤられたけどな。
まあ、周りがそう言ってるなら虫がつかなくてかえっていい。