俺もやっぱり少し飲みたいと、カホの白ワインをいっぱいわけてもらって飲む。

「ああ、もう迎え酒だよ、それ。」
「いいんだよ。」
昨日は、よしのと飲んだと言った事を思い出したカホが、聞く。
「昨日は、よしのさんとデートだったんですか?」
「そんなんじゃないよ。芸人仲間とみんなで焼肉に行った。そうしたら、全員ハメやがって気が付いたらよしのと二人っきりにさせられてた。」
カホは、笑って
「なんだかすごく楽しそう。 私、よしのさんともお仕事ご一緒したことあります。」
「そうなんだ。」
「よしのさん、ロケで行ったところで野宿する時も、高岡さんが何か工夫してちょっとした小さなキャンプ道具でおつまみとか美味しいものみんなに作ってくれるって。」
「たいしたものじゃないけどね。だってそれを期待して、ADが、飯盒炊爨とか細々した道具リュックに入れてついてくるんだぜ。」
なんの噂話してんじゃい。

「いいなあ。私もいつかキャンプに連れて行ってもらいたい。」
「おう。行くか? でも、俺のキャンプはハードだぞ。」

カホは、それには答えず言う。
「お似合いだと思うけどなあ。本当にお付き合いしてないんですか?」
俺は苦笑する。 ああ、それ、カホも言うかあ。
「もうそれ何回も言われて聞き飽きた。」
「よしのさん、すっごくステキな人ですよね。私、大好きなんだ。高岡さんも大好き。だから大好きな二人がうまくいってくれるとホント嬉しいんだけど。」
「…………………。」
ホント、女ってたまに残酷だよな。 俺はため息をつく。
「知ってるよ。」
「うん?」
「よしのがいい奴っていうの。 散々一緒にロケやってるし、お互いのことはよく分かってる。」
「じゃあ、、、」
「笑いのプロだからな。もし、このままうまくいって結婚なんてしたら俺の好感度は爆上がりかもしれないけど、それじゃ面白くもなんともないだろ? 」
「おもしろいかおもしろくないかだけなんですか?」
「そうだよ。」
「……………………よしのさんはホントに高岡さんのこと好きだと思いますよ。」
俺は苦笑する。
「高岡さんだって、気がついているくせに。」
「…………大人には大人の事情があるの。」
「また、私のこと子供扱いする。人の気持ち、それもネタの一つなんですか?」
「悪いか?」
「……………わかんないです。」
「わかってもらわなくてけっこう。お笑いなんてなんでもアリなんだよ。プライベートもなんでも切り売りするし、おもしろければタブーギリギリのとこまで踏み込んだって構わない。」
「……………………。」

あああ、もう俺はどうしてこうなる。 おもしろい事言ってこの雰囲気を変えることさえもできない。
そして、いつになくイラ立っている。
「カホちゃんは、一視聴者として、俺たちがうまくいって欲しいって事だよな。
まあ、それは参考にさせていただくよ。」
俺は突き放したような言い方をあえてしてしまう。

カホは、怒っている。
「高岡さんのバカ。」
俺は苦笑して
「俺はバカなんだよ。 っったく、この企画になってから、キャバクラの姉ちゃんさえも同じような事言ってきて全然おもんないし、店でモテなくなるし、最悪だよ。」
まっすぐとカホの顔は見れない。

「なんで、そんなこと言うの?」
「なんでって? 元からこういう男なんです。」
「………………ごめん。私が余計な事言ったよね。高岡さんの仕事やプライベートの事に口出しする筋合い、私にはないもんね。」
「…………………。」
「でも、なんか高岡さんはそうやって無理をしているような気がする。」
「なんで?俺は楽しくやってるけど?」
「……………。」
「俺はめちゃくちゃ遊んでめちゃくちゃやってる昔のお笑いの師匠たちに憧れてんの。ああいう風になりたいの。」
「あんまり、そういうの性に合ってない感じがするけど。」
カホは、プンッと怒ってそっぽを向く。
「ああ、すいませんね。どうせ小物感たっぷりの男ですよ。」
「そんなこと言ってない! 」

俺はなんでカホとこんな言い合いになってるんだ。
気が付いたら、俺は、カホをソファに押し倒し上にのしかかっていた。
このまま、ほんとに抱いてしまおうか。 優しくなんてできない。めちゃくちゃにしてしまいたくなる。

気の強いカホの眼はキッと俺をにらみ、でもその瞳の奥は少し怯えていた。
「………………。」

俺はいったい何をしてるんだ。
こんなやけになった状態で、カホをどうにかするなんて望んでいない。

俺は、苦笑いしてそのまま手を緩め、起き上がる。
「ごめん。冗談だって。」
もうカホの顔は見れない。
もしかしたら、カホは泣いていたかもしれない。
「ばか。」
そう言い残してカホはそのまま部屋を出て行った。