弁当は皿にあけて、レンジでチンをして、残っていた野菜で手早くスープを作る。
カホがいなかったら、冷たい弁当をビールと一緒にかきこんでいただろうが、カホには美味しくそしてちゃんとバランスいいものを食べさせてやんなきゃいけない。
俺って、結構尽くすタイプなのか?

「ありがと。疲れてるのにあったかいスープまで作ってくれて、なんか高岡さんにはいっつも甘えちゃうな。」
「相手がいた方が、俺もちゃんとしようと思うんだな。」
「ふーん。高岡さんは、結婚しないんですか?」
「え、」
わあ、直球の質問がきたな。
カホは、いただきますと手を合わせて、スプーンですくったスープをふうふうとしながら言う。
「高岡さん、いい旦那さんになると思います。 優しくて包容力もあるし。」
俺は苦笑する。
「結婚には向いてないと思うけど。」
「そうかな?相方さんも結婚してるんだし。」
う、なんだ急に。
「俺は自由を謳歌したいの。」
「とかなんとか言って、結婚したら奥さん大事にしそうだし、子どもなんかできたら、きっと運動会とかこおんなでっかいカメラで一番前の席陣取ってパシャパシャ撮りまくったりして。」
「想像できねえな。」
「そうかな? 私は全然想像できます。」
「結婚なんかしたら、俺の下ネタやキャバ風俗研究家も続けられなくなって、芸人終わりだな。」
「あー、そういう意味? 理解してくれる人を探すしかないですね。」
「カホちゃんは理解あんの?」
「あるわけないじゃないですか。」
「はは。だよな。」
自分で牽制しているようなもんだな。
カホみたいなかわいい彼女がいつもそばにいる人生歩んでたら、風俗だとかキャバなんて必要ねーーんだよ!

俺は話をそらす。
「そういうお前はいい人いないのかよ。」
わかってて聞いてみる。ちょっと詮索してやろうという気持ちで。
「いるよ。」
ポーカーフェイスでいたとしても、心のうちは相当なダメージを受けている。
「じゃ、こんなとこにホイホイ来ちゃダメだろ?彼氏に怒られる。」
「別に怒りませんよ。遠恋なんです。」
「ふーん。 どこにいるの?」
「福岡。あ、私福岡出身なんです。相手は幼馴染です。」
幼馴染ってなんだよ。すげー長い時間じゃないかよ。
入り込む余地もないってやつだな。
どんよりと地味にダメージを受けている自分がいる。 期待なんかしていたわけじゃない。でも、彼女が他の知らない男のものだと改めてわかって、ぎゅっと胸が締め付けられる。
「ふうん。長いんだな。それこそ結婚すれば?」
「まだしません。高岡さんと違ってまだ若いもん。やりたい事沢山あるのでー。」
カホは、なぜか憎まれ口を叩いていーっだ!っという顔をしてプンッと俺から目をそらす。
「なんだよ。そのトゲのある言い方は。そんなこと言ってると行き遅れるぞ。」
「高岡さんみたいに頭の中がおっぱいのことしかない人にはわかりませんよ。」
「んだとお。」
なんの言い合いをしてるんだか。
試すような事を言って、相手の心を詮索する。 俺はいっつもそんな小賢しい事で自分で自分にダメージを作っていく。
ふうっとため息をつき、ビールをひとくち飲む。