不細工芸人と言われても


しかし、思いのほか急展開したことに、俺は舞い上がっていた。
マジで、お兄ちゃんとしてでもいい。慕ってくれているのは、嬉しい。

数日後、ロケから戻ると俺のマンションの宅配受けに、カホの手書きの一筆箋と貸した服が綺麗に洗濯されて紙袋に入れて置かれていた。
俺は少しガッカリする。 これを口実に会いたかったのにさ。
勢いで俺はカホの番号をタップする。

コールが繰り返すたびに、俺の胸は高鳴る。
なんだよ、これ。 こんなん、もう俺はカホに恋してるみたいじゃないかよ。
慌てて、俺は自分の中でそれを取り消す。 違う。
気も合うし、一緒にいて楽しいが、それは妹みたいに可愛がっているだけだ。
それ以上の感情はない。
俺は、静かにカホへのコールをストップする。
カホのスマホに残ってしまった俺の着信を消したい気分になる。
折り返しの電話はつながらない方がいい。
俺は自分のスマホの電源を落とした。

どこかで、彼女を好きになってしまったらマズイという気持ちがあった。
どうせまた俺の独り相撲。
最初っからうまくいくはずがないのはわかっている。

それに、芸人で食べていくと決めて今までやってきた俺は、普通に一人の女の子を幸せにするとかそんな自信は持ち合わせていない。
気軽にずっと一人でいるつもりで、めちゃくちゃやってきた。
まあ何度か女の子と向き合わなければならない場面でも、俺はそうやって逃げに走ってのらりくらりとやってきたのだ。

なんだか今回だけは、俺は異常に恐れていた。
どんどん、俺の中で彼女の存在が大きくなっている事に。
うまくいくはずがないのに、セーブできないほどに彼女を欲しがってしまうかもしれない事に。
勝手に思っているのは自由だ。

でも、例えば彼女が結婚するとか、別の仕事になって会えなくなるとか、何かのきっかけで、彼女を遠くから見れるこの時さえも失う時がいつか必ず来る。
その時を考えると途方に暮れてしまう。